2018年3月31日土曜日

「左腕を切り裂いた」が場面細部…?

『ジ・インディ・ハック(TIH)』では物語を構成する言葉の最小単位を細部(ディティール)とし、これを3つに分類しています。


  • 確定細部(ハード・ティティール):物や人の根本的な変化を表す。
  • 流動細部(ソフト・ディティール):些細で一時的な物事の変化を表す。
  • 場面細部(シーン・ディティール):周囲の状況、戦況の変化表す。


このゲーム上の分類はよく言えば自由度が高く、悪く言えば曖昧です。
実際のところ、ダイスを振って提案される細部が3つのうちのどれなのか、それはゲームマスターの裁定と参加者全員の合意を積み重ね、プレイグループごとに最適化されていくべきものだと作者は捉えています。
なので、ルールブックにも大まかなガイドラインと、それぞれの例が少しばかり挙げられているだけです。

それもまた1つの見識ではある、と私は考えているのですが、1点どうしても補足しておくべきだろうと感じる箇所があります。
場面細部の説明で挙げられている例が、それです。

「左腕を切り裂いた」が場面細部な理由

販売ページのサンプルでも確認できますが、TIHルールブックP.5の場面細部の例に「彼の左腕を切り裂いた!(I slashed his left arm!)」と書かれています。
戦闘等で対象にダメージを与えるのは確定(損害)細部ではないのか?
なぜ、これが場面細部なのか?
私も訳していて不思議で、作者に直接質問することも考えました。

謎が解けたのは、TIHコアエンジンを使用した作者の新作『Dust, Fog and Glowing Embers』を読んだ時のことでした。
こちらは総ページ数99pのゲームなので、細部の分類についての解説も補填されて例も多め。そして『Dust...』でも「左腕を切り裂いた」は場面細部で、より突っ込んだ解説がされていたのです。

該当箇所を読むと作者は「左腕を切り裂いた」を、確定細部と場面細部が同時に適用された場合の例に挙げていました。
戦闘でダイスを振り、プレイヤーが3差で勝ったとしましょう。プレイヤーは敵に対して確定細部1つと場面細部1つを追加できます。
この例の場合、そこで敵に追加されたのがまず「切られた」という確定(損害)細部、そして「切られた左腕が動かせなくなる」という効果――場面細部です。敵の片腕が動かなくなるというのは戦況の変化なので、場面細部であると解釈されています。
敵にダメージを与えたことを示す確定細部と、その結果生じた現象を示す場面細部の組み合わせが「左腕を切り裂いた」だったのです。

『Dust...』では、もしダイス振りの結果で確定細部1つしか敵に与えられなかったら、例えば「深い切り傷」といった損害細部を追加できるだけで、上記のような効果(片腕が効かなくなる)は得られない、としています。
つまり攻撃で敵にダメージ(損害細部)だけでなく、武器を落とさせる、転倒させる、目をくらませるといった副次効果も一発で与えたいなら、ダイス振りで3差か5差以上で勝つ必要があります。
(※4差で勝った場合は、振ったプレイヤーと別のプレイヤーのそれぞれが確定細部を1つ追加する権利を得るため、攻撃で損害+効果を同時に与えることはできない)

どうやらTIHのこの部分には疑義が呈されていたようで、作者も新作で説明を追加したようです。

作者の指定ではあるけれど

以上が「左腕を切り裂いた」が場面細部の例になっている理由です。
戦闘では、上に記したガイドラインが役に立つことも多いでしょう。TIHのルールでゲームをしていると、プレイヤーは戦闘で敵にダメージを与えるだけでなく、何か面白い効果も提案して場面を盛り上げたくなるものだからです。

ですが、上記はオフィシャルではありますが、あくまでガイドラインです。
作者はTIHを「遊ぶためのツール」として、グループの好みに合わせて修正することを推奨しています。

私もまた、作者公式にとらわれず、確定/流動/場面の分け方をプレイの状況に合わせて随時、編み出していくことをオススメします。

2018年3月28日水曜日

ジ・インディ・ハック日本語版がリリース

2018年3月28日、Scablands Pressより『ジ・インディ・ハック』がDriveThruRPGにアップされました。
価格は6.60USドル(セール時は4.42USドル)で、元の英語版と同額に設定されています。


・作者:スレイド・ストーラー
・イラスト:ヘラー(J.カルロス・アンドレ)

『ジ・インディ・ハック(略称TIH)』はルール極小のファンタジーRPGです。
独特な「細部追加」のシステムによって、プレイヤーサイドからの発案が物語を大きく左右する、ナラティブでプレイヤー・ドリブンなスタイルが念頭に置かれています。
また、カバーおよび本文に挿入されているヘラーこと、J.カルロス・アンドレ氏のイラストも魅力的です。

  • ジャンルはオールドスクールなファンタジーもの
  • ルールはコンパクトで、ゲームマスターが把握していれば、その場の説明で問題なくプレイできる
  • 各人が細部(ディティール)を発言、時にそれをメモすることで物語が展開する。その場の思いつきで追加された細部が物語世界の“事実”となるので、プレイによって世界やキャラクターはグループ独自の豊かなものになる。
  • 戦闘の描写やダメージも細部の追加で表現される。殴られれば「頭から出血」し、剣の斬撃を与えれば敵は「胸を切り裂かれた」ことになる。
  • 魔法もまた細部追加で効果を発揮する。元素術師は呪文「変身」を唱え、自分に「鳥の姿」の細部を与えれば、鳥になって飛ぶことができる。

TIHの特徴をざっと挙げると上記のようになるでしょうか。

あと、キャラクターが死ぬと「裁きの三女神」に対面して、彼女たちの出す条件を飲めば復活できるというのも、風変わりなところかもしれませんね。復活後に女神との約束を守らずにいると「呪詛」という細部をダメージとして受けることになり、心を入れ替えて条件をクリアしない限り消せません。
これはキャラへの救済措置というより、死を前にして女神と向き合うこと自体がプレイの一環であり、条件付きの復活が次なる冒険への手がかりともなるギミックです。

トータル28ページ(日本語版はカバー裏や目次を付けたので32ページ)の小品も小品なゲームですが、いろいろと興味深いアイディアが詰め込まれています。
細かな数値やデータを駆使するシステムではありませんから、シナリオは他ゲームからの流用が効きやすく、オリジナルを準備するにしても、あまり手間がかかりません。
と言うか、プレイヤーが追加する細部もGMが提供する情報とほぼ等価なので、準備したものにこだわるよりも、プレイ中に突っ込まれたもので組み立てたほうが楽しい……というゲームです。

手軽でちょっと変わったフィーリングのRPGをお求めの方に、是非お試しいただければと思います。

『サウザンドイヤー・オールド・ヴァンパイア』キャラクターシート拡張版

先日までプレイしていたサンプルを踏まえ、Googleスプレッドの『 サウザンドイヤー・オールド・ヴァンパイア 』キャラクターシートを拡張しました。 基本構成は変わりませんが、できるだけ行挿入で新たな欄を作らなくても済むように、各項目の記入欄を増やしています。 また暫定的なものです...